あたしはそっと月になる
「そっかっ…ホントにあたし…樹里の気持ち全然知らなかった………」



実夕が小さくつぶやく。



「ずっと言いたくても言えなくて…ゴメンね、実夕…」



「………じゃあ…両思いなんだね…樹里と潤…」



実夕はそう言った後、また黙り込んでしまった。



ほんの少しの沈黙の時間でも、



静かな教室の中ではとても長く感じた。



両思いなんて、あたしにとっては夢のような話。



「そんな…ことないと思うけど…」



あたしの口からやっと出たのはそのひと言だった。



「両思いだよ。だって、潤…言ってた…樹里が気になるんだって。あたしの事は何とも思ってないって」



「……そんなこと……」



「あたしね、こんな風に振られたの初めてなんだ……まさか潤が樹里を好きだなんてさ……」



「………ゴメンね…実夕…ずっと自分の気持ち言えなくて……」



「謝らないでよ…樹里に謝られたら余計に惨めになる……」



「………でも……やっぱりゴメン……」



「だからぁ……謝らないでよ…っ」



気がつくと二人で涙ぐんでいた。



あたしにとってこんな状況なんて初めてで、



どう言葉に繋げていけばいいのか分からないよ。

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