あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
基地の飛行場、滑走路が見えてきた。




自分の呼吸音がうるさい。




全身が痛い。





でもあたしは、行かなきゃいけない。




一分でも、一秒でも、早く。






滑走路にはもう、特攻機が一列に並んで、ゆるゆると動き出していた。





待って………行かないで。




まだ行かないで。




あと少しでいいから、待って。





滑走路の周りには、数え切れないほどの人が集まっていた。





特攻隊員に向かって敬礼をしているおじさん。



同じように一人一人に敬礼をする、幼い男の子。



涙を滲ませながら白いハンカチを振っているおばさん。



枝花を必死に振っている女学生たち。





その向こうで、特攻機の操縦席の中から、見送りの人たちに笑顔で手を振り返す隊員たち。



贈られた花束やマスコットを持ち上げて、何か言っている人がいる。





エンジン音がうるさくて、何も聞こえなかった。




唇の動きで、ありがとう、と言っているのが分かった。





隊員たちは真新しい軍服を着て、真っ白なマフラーを夏の陽射しに輝かせている。




それに負けないくらいの、明るくて屈託のない笑顔を輝かせている。






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