あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
7月に入り、暑さも本格的になってくる。




汗を拭いながら学校からの帰り道を歩いていたとき、あたしはふいに足を止めた。




………百合の花の、においがする。




近くを見渡して、ある家の庭に、真っ白な百合が咲いているのを見つけた。




その瞬間に、心臓を鷲掴みにされたような切なさを覚える。





………彰。



あたしは今でも、一日に何度も、彰のことを考えてしまう。




考えるつもりなんて、全くないんだけど。



ふとした瞬間に、彰の面影がよぎる。




思い出してしまうのだ。




あの優しい微笑みを。


低くて少し甘い声を。


あたしの頭を撫でた大きな手を。


あたしを抱きしめた力強い腕を。


広くて温かい背中を。





こっちに戻ってきてすぐ、あれは夢だったのかな、と、一瞬だけ思った。




あの時代に行って、恐ろしいものをたくさん見て、それと同じくらいたくさんの優しさに出会った。




あれは、一晩の夢だったのかな、って。





夏の夜の夢。



暑さが見せた幻。





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