上司に秘密を握られちゃいました。
駅近くでタクシーを捕まえ、我が家へと急ぐ。
あの赤いジャケットなら、クローゼットに眠っている。
もちろん、見よう見まねで作ったものだから、きちんと業者に発注したものには敵わない。
だけど、細かいところが見えなければ、きっと大丈夫。
幼稚すぎる仕打ちに、腹も立ったけれど、今はショーのことで頭がいっぱいだった。
タクシーを待たせておいて制服をとってくると、再び乗り込んだところで、ポケットの中に忍ばせておいたスマホが震えた。
『もしもし。藍華、中津さんから聞いたよ。どこにいる?』
公孝さんの声が焦っている。
「今……家です。あと三十分ください」
ギリギリ、ショーに間に合うはず。
『家って……』
「赤いジャケットがあります。すみませんが、他のモデルの方の誘導を」
『それは任せておけ。だけど、ジャケット?』