上司に秘密を握られちゃいました。

「お名前言える?」


一番小さな女の子は、私の手をギュッと握りしめる。
不安なのが、手に取るようにわかった。

かわいいワンピースを着ておめかしした女の子は、私の質問に首を振る。

普通なら言えるのかもしれない。
だけど、不測の事態にそれどころではないのだ。


私は、自分が迷子になったときのことを思い出していた。

最初は不安でいっぱいだった。
だけど受付嬢が優しくしてくれたから、制服のかわいさに目を輝かせ、迷子を満喫するまでに至ったのだ。

私もそうならなければ。
この子たちにとって、東郷百貨店がイヤな思い出にならない様に。


とはいえ、子供たちを連れての大移動は大変だった。


「今から遊びに行きますよ」


私の両手は取り合いになった。
皆不安で、引っ付いてくる。

お母さんって、こんなに大変なんだ。
< 90 / 439 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop