上司に秘密を握られちゃいました。

「また残業させちゃったね」


時計を見ると、もう二十時だ。
今日は十八時までの勤務のはずだったから、かなりの時間オーバー。

だけど真山さんも、私と同様、朝から働いている。


「気にされないでください」


派遣の私でも、役に立てたかな?


「真山さん」


廊下から真山さんを呼ぶ声がする。


「はい、ここです」


大きな声で返事をした真山さんは、「本当にありがとう」と私に手を差し出した。


「はい」


思わず差し出された手を握ってしまってから、ちょっと後悔した。
だって、心臓が止まってしまいそうだったんだもの。


家に帰ってもドキドキが収まらない。

パンパンになった足を投げ出してソファに座ると、バッグの中のスマホのバイブ音に気がつき、慌てて手に取った。

真山さん、だ。

さっきの手の感触が残っている私は、再びドキドキしだした心臓に気がつきながら、ボタンを押す。
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