従順なペットは愛を囁く
「帰る」
私は、棒読みのようにそういうと、立ち上がり自分のバッグをゆっくりと手に取った。
冷静さを保つことに集中し、なるべく静かに丁寧に動作をする。
そうしないと、たまりにたまったものが爆発してしまうと思ったからだ。
飼い主目線の康之さんにキレたところで、負け犬の遠吠えとしか受け取ってもらえないに決まっている。
「は? 何言って……」
「さようなら」
「はあ?」
「永遠にさようなら」
お辞儀も丁寧にした後、すぐにこの場から駆け出したかったけれど、こういう時に限ってそこはお座敷で、履きづらいショート丈のブーツに心底後悔しつつ、なんとか外へ出ることが出来た。
私は後ろを振り返ることなく、中学生以来していない全速力ダッシュをしていた。
康之さんはきっと追いかけてこない。
「うおおおおおおおおお」
腹から声をだすのも、何だか久しぶりで、気持ちがよかった。