だめだ、これが恋というのなら


その涙を見て、俺はキスするのをやめた。


そんなに泣くくらい、俺のことが嫌いってこと?


そんなに涙を流すくらい、俺のこといやなの?



俺が、お前に、今キスしたこと以外で、何か嫌なことしたか?

なんだキスする、ずっと前から、俺はお前に嫌われてんの?




『…そんなに俺のこと嫌い?』


俺の言葉に彼女は目を瞑り、俺の問いかけの返事と言わんばかりに涙を流した。




『……汚い……』



……え……?


“最低”と罵られることはあったけど。


でも“汚い”、そう言われたのは実に初めてのこと。


俺は一瞬、何かの聞き間違いだと思った。



でも、彼女の涙が、聞き間違いではないと、そう物語っていた。





『……なんで……どうしてこんなこと……するの…?』



『…好きでもないのに…私に触らないで……』



『他の人とキスした、その唇で………私に…キス…しないで………!』




彼女は教科書を拾い集め、そして俺の元から離れようと、



だから俺は彼女の手を引いた。




『……離して…』



『俺のこと、嫌いなんだろ?』


俺の言葉に彼女は何も答えない、何も言わない。




『俺のことが嫌いなら、他の女と同じになれよ?
 俺に笑えよ、俺を無視すんな、俺を見ろよ』



でも、彼女は何も言わなかった。



けど
その代わりに、ひきつった顔で、それでも俺に笑った。





『……あんたなんて……だいっきらいよ…』


そう言って、また俺に微笑んだ。







< 21 / 52 >

この作品をシェア

pagetop