ホルガリズム
「1週間くらい前に引越してきたんだよ。そうだそうだ、すぐに挨拶に行ったけど君んちだけ留守だったんだ。」


頷きながら話す彼女は、やたらと声を反響させる階段をさっさと昇っていく。僕はその声を追うように、彼女の後に続く。


「そういわれてみれば、隣の玄関に表札がついてた気がする。」


築30年以上になるこのアパートには不似合いな、シルバーのオシャレなプレートに気が付いたのはほんの数日前の話だった。




「という事で、」



階段を昇りきった彼女が、振り向いてニッコリと微笑んだ。



「平田和葉です。改めて宜しくね。」


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