君をひたすら傷つけて
 芸能事務所で敏腕マネージャーで冷徹と言われる彼は家では私を本当の妹のように大事にしていて、甘さがどこまで深いのだろうかと思うくらい。外では誰も知らない私とお兄ちゃんの秘密。でも、ルームシェアと言えば聞こえがいいけど、私は今も昔も甘えているだけ。


「そろそろ私も出掛けるかな」


 今日の撮影前に事務所に寄って、メールの確認をして…頭の中のスケジュールは一応不備なし。だけど、スケジュール通りに動くなんて思ってはない。
 

 季節は春。


 マンションから駅までは少し歩かないといけない。もう少し近ければいいのにと、思ったりもするけど、この季節は…。ゆっくりと歩くのが好きだった。桜の花を見ると色々な事を思い出す。


 慌ただしく乗り込んだ電車の窓越しに見えたのはブランドの高級時計を着けた人が電光掲示板に映っている。綺麗な顔に神様が与えた素晴らしい体躯。涼やかな視線は街を見下ろしている。


「好きだったの。それは嘘じゃない」


 そんな呟きが零れる。色褪せない思いは今も私の心の鮮やかな花を咲かせている。


 一生枯れない花。それは『初恋』
 許されない思いは人を傷つけた。


 私の最初で心の奥底に眠る思いは忘れることの出来ない桜の花と共に私の心の奥底に咲き誇る。誰よりも誰よりも愛した人は桜の季節に私の心を捕え、今も放さない。


 そして、綺麗であれば綺麗であるほど傷つける。

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