君をひたすら傷つけて
 ずっと、お兄ちゃんに迷惑を掛けないように頑張ってきた。公私混同を嫌うお兄ちゃんにとってのたった一つの例外が私。全くの実績のない私を篠崎海のスタイリストにしたのはお兄ちゃんの力があってこそだった。だからと言ってまだ自分の仕事に自信はない。


「だといいんだけど、でも、自信を持つって難しいの」


 そんな私の言葉にお兄ちゃんはニッコリと笑ってくれた。用意が出来たのか、お兄ちゃんは玄関の方に歩いていく。今日は私も仕事だけど、先に出るのはお兄ちゃんで、私はそのお見送り。お兄ちゃんは一緒に住んでいるからと言ってそこまでする必要はないというけど、やっぱり私は玄関まで一緒に行く。


「自信持て。、雅の実力は俺が保障する。後、寝る前にきちんと鍵を閉めているか確認して、温かくしてから寝るんだぞ。今の時期はまだ肌寒いからシャワーもいいけど、きちんと湯船に浸かるんだ。女の子は身体を冷やすのが良くないだろ」


 自分の親さえも言わないようなことを言ってくるのを半分聞き流しながらも、心のどこかで大事にされているという気持ちはあって…私は帰ってきたら湯船に浸かるのだろう。


 なんといっても彼は私にとって大事な『お兄ちゃん』なのだから、きっと私は言うことを聞く。


「わかっている。大丈夫。いつまでも子どもじゃないし」


「子どもじゃないから心配するんだ。女は身体を冷やすとよくない。じゃあ、行ってくる」


「はい。行ってらっしやい。お仕事頑張って」
< 9 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop