君をひたすら傷つけて
「おはよう。雅。今日は一段と寒いね」


 駅を出て学校への道を流されるように歩く私に声を掛けてきたのは同じクラスのさやかだった。さやかも私と同じようにコートを着て、首元にはマフラーを巻いている。でも、さやかは引退するまではソフトボール部のキャプテンをしていたせいか、私ほど寒がってはいなかった。蓄えた筋肉は今も健在なのだろう。


 三年間帰宅部の私とは全く違う。やりたいことを見つけることの出来なかった私は流されるかのように時間を過ごしてきた。好きなことが見つけられなかったということには後悔していない。ただ、好きなことが見つけられたかそうでなかったかの違いだ。


 部活をしてるさやかとは三年の夏までは朝の登校時間にこんな風に会うことはなかった。こんな風に会えるようになったのはさやかが部活を引退してからなのに、一緒に居ることに違和感を覚えないことが時間が確実に過ぎているという証拠だった。


「おはよう、さやか。なんか眠そうだね。昨日は遅かったの?」


「昨日も夜遅くまで塾で扱かれていたから思いっきり寝不足で頭がぼーっとしてる。冬休みなんてなかったも同じで、ここに枕があったらすぐに寝れる自信がある」



「でも、ここで寝てしまったら、違う意味で寝てしまうよ」


 こんな寒さの中に寝てしまうと違う意味、つまりは凍死してしまうということ。それが分かったのかさやかはクスクス笑いながら私を見た。


「確かに。でも、それくらい寝たいってことよ。受験が無ければいいのに早く自由になりたい」


 私も似たようなものだからその気持ちは分かる。寝不足だし、冬休みは塾の毎日だった。受験生に自由はないのは覚悟していたけどこんなにもなのかと溜め息はいつも零している。

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