君をひたすら傷つけて
 義哉を失ってからの私はいつも義哉の存在を探してしまう。この雑踏のどこかに義哉の姿があるんじゃないかと。こんなにたくさんの人がいるのだから、義哉がいるのではないかと思ってしまう。

『雅。』

 呼ばれたように感じて振り返っても義哉は居ない。分かっているのに心がまだ諦めきれてない。そんな前を踏み出せない私がサークル活動をする気にもならず、ただ立ち止まっているだけだった。


 そんなある日のこと。

 大学生になっても私は月命日には義哉の眠るお墓に行くことにしていた。毎日でも義哉のところに行って話をしたいと思うけど、そんなことをすると『自分の生活を大事にしろ』と義哉は絶対に怒るだろうから月命日だけと決めて義哉のもとに行くことにしていた。


 大学の講義が終わると近くの花屋に寄り、香りのいい花を選んでお墓に向かう。そして、私はそこで義哉に大学のことや毎日の生活の話をすることが私を落ち着ける。義哉が亡くなって三か月が経ち、もう夏が迫っている。暑いと思いながら歩いていくと義哉のお墓の前には先客があった。


 仕事の合間に来たのだろうか、真剣な様子で手を合わせるスーツ姿のお兄さんの姿が目に入る。私の気配に気づいたお兄さんは視線を向けると驚いたような顔をしていた。


 こんな平日の昼間の時間に私が現れるとは思ってなかったようだった。
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