君をひたすら傷つけて
　そんな先生の雰囲気に教室の空気が緩む。


　必死に参考書で勉強していた生徒も手が止まり、先生の方を向く。向かされるのではなく、向いてしまう。そんな優しい引力にクラスは包まれていた。クラスの視線が先生に集まると同時に先生の優しい声が響く。先生の声を聞きながら、癒されるなぁと私は思っていた。


「今日は皆さんに大事なお話があります。このクラスの新しいお友達が増えました」


　先生の言葉に水を打ったような静けさの教室が一瞬で弾けるかと思うくらいの勢いで皆が声を出す。高校三年生の三学期に転校生が来るなんて聞いたことがなかった。ざわつく教室で先生の手がパチンと音を立てる。すると、急に教室が静けさに包まれた。


「そんなに大きな声を出したら、新しいお友達が吃驚するでしょ。入りにくくなるから、静かに。高取くん。教室に入ってきなさい」


　先生の言葉とともにクラスに入ってきたのは綺麗な男の子だった。その男の子に見惚れるクラスメートの女の子からいきなり違った意味での歓声が上がった。入って来た男の子は驚くほどの端正な顔をしていて、あまりの歓声に少し恥ずかしがりながらも天使のような優しい笑顔を零している。


　高校三年の男子というのは身体も大人に負けないくらいになっていて、肩幅の広さなどが際立ちだし、明らかに女子とは違ってくる。でも、転校生の彼は白い肌に色素の薄い茶色の髪。華奢な姿は絵本の中から出てきた王子様のように見えた。勿論、童話に浸る年ではないけどやはり目を見張るものはあった。

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