君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんは空手の有段者ではない。それに喧嘩なんかしたこともないだろう。それなのに空手の有段者であるレンジ先輩が強者というのはどうしてなのだろうか?私には優し過ぎるくらいなのに……。

「そうですか?優しいですよ」

「もしそうなら優しいのは雅ちゃんだけだよ。あのニッコリと笑った中にある冷たさを感じた俺としては、逃げたくなったね。さあ、駅についたね。俺はさっきの飲み会に戻るからここで大丈夫かな?」


「ありがとうございました」

「思いっきりフラれた相手にお礼を言われるのも微妙なんだけど、じゃ、また大学でね」


 そんな言葉を残して、レンジ先輩は今来た道を歩いていく。よく分からないけど、少し強引なところはあるけど悪い人ではないみたい。色々と言いながらもここまで送ってくれたし…。でも、これからどうしよう。駅まで来たけど、お兄ちゃんのマンションのある駅に行くべきか、それともこの辺りで仕事をしているお兄ちゃんを待つのがいいのか…。

 どうしようかと思っていると私の携帯が震えた。急いでバッグの中から電話を取り出して画面を撫でるとお兄ちゃんの声が耳元で響いた。


『雅。今どこだ?一人か?』

『うん。今は一人。まだ近くの駅にいるよ』


 耳元に聞こえてきたお兄ちゃんの声を聞きながら、心が落ち着いていく。レンジ先輩の言葉が気になりながらもお兄ちゃんの声に神経を集中した。
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