君をひたすら傷つけて
『そろそろ仕事が一段落しそうなんだ。雅が一人で待てるならそのまま駅に居てくれたら助かる。帰りは車で送るから、雅が家に帰りつく時間はそんなに変わらないと思うけど』

『大丈夫。お兄ちゃんに鍵を返さないといけないし、それに元々は私が電話したからだもん』

『それは気にしないでいい。出来るだけ急ぐから駅のカフェにでも居てくれ』

『うん』

『じゃあ、後で』


 そういうとお兄ちゃんは電話を切ったので、私はお兄ちゃんに言われたとおりにカフェに入るとカフェオレを頼んだ。砂糖を入れたのはきっと私が疲れているから。窓際の空いている席に座るとお兄ちゃんの来るのを待っていた。

 私はカフェオレを飲みながらお兄ちゃんのことを考えていた。サークルに入ると言ってから初めてで、それも久しぶりの電話。メールも滞りがちだった。それなのにいきなり彼氏のふりを頼んだのだから、カフェオレを飲みながら消えたい心境だった。

 そして、私は義哉のことを考える。

 もしも義哉が生きていたら、お兄ちゃんのように私を迎えに来てくれたかもしれないと重ねてしまう。お兄ちゃんに義哉を重ねるのはいけないことだけど、もしも生きていたらという思いがどうしても重ねさせる。


 目を閉じるだけであの短かったけど楽しくて幸せだった日々。まだ思い出には出来ずに私はあの頃のままだと思い知った。
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