君をひたすら傷つけて
 私が到着する時間はとっくに過ぎていた。でも、誰も迎えに来ない。こういう場合はどうしたらいいのだろう。タクシーに乗って土地勘のない日本人が無事に辿りつけるとは思えない。

 初めてきたヨーロッパ。それもフランスのパリの空港で私は緊張と不安で押し潰されそうだった。

 約束の時間から二十分を過ぎた頃のこと。さすがに自分でタクシーを拾ってアパルトマンに向かおうと思った時の事だった。不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。とても綺麗なベルベットのような声だった。

「ミヤビ・トウドウ?」

 不意に名前を呼ばれ見上げるとそこには豪奢なブロンドを肩下まで伸ばし、澄んだ青い瞳を眩そうに細めたすらっとした体躯の美女がそこにいた。真っ白で染みひとつない肌には毛穴がないくらいに細やかで同じ女としてドキドキしてしまう。身体に添う服は綺麗なドレープのカシュクールドレスで胸の谷間が協調されていた。

 そんな美の女神とも思える要は女性が私の瞳を捉えると嬉しそうに微笑んだのだった。

「イエス」

「よかった。まりえが急に熱を出したから、出掛けにバタバタしたの。まりえと一緒に来るつもりだったけど、渡しだけになってしまったわ。私は雅のルームメイトのリズよ。よろしくね」


 リズと言ったその人の姿で驚き、流暢な日本語で驚き…。

 私のフランスでの生活の始まりはリズから始まった。
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