君をひたすら傷つけて
 テーブルの上のお皿をキッチンのホーローの洗い桶に入れると、リズさんはテーブルを拭く。私がお皿を洗おうとすると、リズさんはそれを止めた。

「共同生活は明日からでいいわ。今日は疲れているんだしシャワーを浴びて早く自分の部屋のベッドで寝てね」

「でも、片づけをリズさん一人じゃ大変です」

「まりえももう寝てるのよ。だから、気にしないで。私が仕事で忙しい時は頼むこともあるし。今日は私がするから大丈夫。シャワーは奥にあるの。レバーを回せばお湯が出るけど、一気に熱くなるから火傷しないように気を付けてね」

「はい。ありがとうございます。あの、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 自分の部屋に入ると疲れが一気に押し寄せてくる。日本からフランスまでは飛行機でもかなりの時間が掛かるのだから疲れるのは当たり前かもしれない。一年前までの私ならフランスに来るなんて考えることも出来なかったと思う。留学したいという思いはあった。それは夢であって、現実になるとは思えず、夢に靄が掛かるような淡い思いだった。

 でも、今、私はフランスにいる。義哉の存在が今も私を支えてくれている。義哉が亡くなって一年半という月日が流れていて、時間はいくら流れても私の義哉に対する思いは消えない。消えないどころか、一人でいるといつも心は義哉に捕らわれている。

 静かにベッドに横になると、バッグに入れっぱなしにしていた携帯を取り出してみた。飛行機に乗る時に電源を落としそのままになっていた。電源を入れるとメールが届いていた。一通は母からでもう一通はお兄ちゃんからだった。
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