君をひたすら傷つけて
 リズがスタイリストとして動くこの場所は誰もが一度は名前を聞いたことのあるデザイナーがコレクションを発表する会場だった。由緒正しいだけあって、コレクションの発表の場には多少厳か過ぎるが、それもこのコレクションの格なのだろう。

 リズはその中のスタイリストの一人だった。プログラムには筆頭スタイリストでいくつかの衣装を担当するけど、圧巻なのは最後のマリエのスタイリストとして名前が挙がっていた。

 私はリズのアシスタントということになるけど勤まりそうもない。心臓が嫌な音を立て緊張しすぎている私がいる。足に根が生えたかのように雑踏の中、足が動かない。大きなメイクボックスを二つ抱えた私は、緊張のあまりその場に立ち止まってしまった。

 足が竦む。今、私はそれを体感している。

 いつの間にか挨拶を終えたリズは私の所にくると、右手をギュッと引っ張った。

「行くよ」

 リズはそのまま引き摺るように会場に私を入れた。足が竦んだのも一瞬で躊躇する時間さえもくれなかった。人混みの中、首にスタッフカードを掛けられ奥まで引きずられるようにして歩いた。

 長い廊下だった。でも、その廊下には人が溢れている。モデルらしき人も居ればリズのようにスタイリストのような人もいる。その合間を縫うように歩いていて、余りの怖さに足が動かなくなった。

 こんな会場に素人のアシスタントは必要ないだろう。

「リズ。やっぱり私には無理」

「大丈夫。私がいるから失敗はない」
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