君をひたすら傷つけて
 リズの手に引かれながら私はその光景に飲まれていた。リズの実力もそれに伴う自信も分かっている。自信を裏付けるだけの努力をしているのも知っている。私が失敗してリズの努力を無にしたくなかった。

「まずはメイク道具と持ってきた道具を与えられた鏡の前に並べて」

「はい」

「その後はモデルを順番に連れて来てくれる?」

 リズは躊躇して足が竦む私を控え室の中に入れたのだった。ドアを開け、入った瞬間に自分の居る場所の現実を思い知る。控え室は戦場だった。そして、私は混乱していた。

 戦場という言葉が相応しいその場は活気どころか殺気さえも漂わせている。今回のファッションショーの規模は随分大きなものなのだろう。広い控室は人が溢れている。リズは荷物を持って入って行くと奥の方で一人の男の人がリズを見つけて大きく手を振った。彼は何回かアパルトマンで見かけたこともあるリズ会社の社員の一人だった。

 彼はリズが目の前に来るとあからさまにホッとした顔をした。そして、私の手からリズの荷物を取ると満面の微笑みを浮かべた。そして、捲し立てるようにフランス語で話し出す。センテンスが流れるようで…必死に聞かないと私には聞き取れない。でも、歓迎されているのはなんとなく分かる。

 拾えた単語で意味を繋ぐしか出来ないけどそれでも会話の意味は分かってきた。

「今回は大変なことになりそうです」

 二人の真剣な様子から何かまた起きたのだろうとは思う。リズは真剣な顔をしながら、そして、自信を漲らせたように感じた。
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