君をひたすら傷つけて
「雅がそこまで気持ちを固めているなら、俺からは何も言えない。頑張れとしか言えない』

『お兄ちゃん』

 お兄ちゃんの溜め息一つが沈黙の中に消えていく。言いたいことはたくさんあるのかもしれないけど、お兄ちゃんの声は私の耳には届かない。ただ、沈黙が流れていた。正面切って反対もしたかったのかもしれない。それでも、お兄ちゃんという人は最後を私の意思を受け入れる。

『もう気持ちは変わらないんだな』

『うん』

『なら、俺は頑張れとしか言えない。でも一つだけ約束して欲しい。これからの生活の基盤をフランスに置くことになるかもしれない。でも、日本に帰国することがあれば俺に会いに来て欲しい。俺は雅の元気な顔が見たいし、幸せに頑張っているのかも知りたい』

『うん』

『俺にとって雅は大事な妹だ。兄として、それくらいは許されるだろ』

 私を大事に思ってくれていることが言葉の端々に、声のトーンに溢れている。私が思う以上にお兄ちゃんに私は心配を掛けていた。それでも私はここで頑張ることを決めたのだった。

『日本に帰ったら絶対にお兄ちゃんと義哉に会いに行く。約束するから』

『約束だ』

 お兄ちゃんは私の言葉に念を押した。

 夏が過ぎ、秋が巡ってくる。

 私の留学期間が終わり、大学は正式に休学した。
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