君をひたすら傷つけて
 彼のここで過ごす時間は二か月で、卒業も一緒に過ごすことが出来ない。それなら残された時間を有意義に過ごして欲しいと思う。その気持ちに嘘はない。でも、だからと言って私が学校内の案内をするのも何かが違う気がする。頭の中で色々考えている間も、彼は私から視線を外さない。真っ直ぐな視線は期待を満たして光を放っている。


 この状態で断られる人がいたらお目に掛かりたいと思うくらいに逃げ道はなかった。そのくらいに私は彼の瞳も深さに飲み込まれた。


「いいけど…。塾もあるから今日の放課後に少しの時間でいい?」


 塾のことを考えると案内をするのは休み時間の方がいい。でも、クラスの女の子の視線を回避するためなら放課後の方がいい。それが最大の譲歩ラインだった。


「もちろん。だって受験で忙しいのわかっているから」


「高取くんも受験するでしょ?」


「う~ん。どうだろ。受験は来年かな。今年は色々とあるから諦めているんだ。だから、俺の受験とかはあんまり考えなくていいから藤堂さんの空いている時でいいからお願い」


 さっき恋愛は受験が終わったらとか言ってなかった?あれは完全な断り文句なのだろうか?


 高校三年のこの時期の転校。
 受験はしない。


 私には理解しがたいけど、そんなことは言えなくて…。でも、無邪気に笑われると何も言えなくなる私がいた。


 そして、頷く自分がいる。


「約束だよ」


 これが私と高取くんとの一番最初の約束だった。

< 28 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop