君をひたすら傷つけて
 時計の針は九時五十分を指している。始業式は十時からなので、ここから急いで行っても時間はギリギリ。この分じゃ始業式が始まってからでしか講堂に入れそうもない。でも、だからと言って学校内に詳しくない高取くんをここに置いていくわけにもいけなくてどうしようかとは思った。


「それでは講堂に行きます。色々ありがとうございました」


「遅れてもいいからゆっくりと行きなさい」


 そん教頭先生の声が聞こえ、高取君と一緒にスーツを着た男の人が一緒に職員室から出てきたのだった。さっきの予告通りにこの高取くんの後ろにいる人がお兄さん?なのだろう。


『お兄さんらしき人』


 そう思ってしまうのは高取くんとお兄さんの雰囲気があまりにも違いすぎるからだった。顔は似ている。身長は少し高取くんの方が低く、身体も細いけど立ち姿は似ていた。でも決定的に違うのはその表情だった。


 高取くんは優しい微笑みをしているのに、お兄さんは…。表面上は微笑んでいるけど、心の奥底では笑ってない気がした。ピリピリとした緊張感が漂っている。


 こんなに何を神経質になっているのだろう。高校生の弟の学校に付き添う兄というのは過保護という言葉よりも神経質という言葉が合いそうな人だった。私を見つめる視線に鋭さを感じ、それは一瞬でニッコリと微笑んだ。


「藤堂雅さん?」


 お兄さんの声も高取くんよりも低いけど、よく似ている。そして、営業スマイルが嫌いだと私は思った。



 
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