君をひたすら傷つけて
『雅。邪魔だから外れて』

 今日は雑誌の撮影で私はリズのアシスタントとしてスタジオに同行していた。でも、思うとおりに動くことが出来ず。リズに思い切り怒られた。

『そこにいると邪魔だから先に帰って』

 こうやって自分だけ先にスタジオを出ることは何回目だろう。どこにも寄る気にならず、真っ直ぐにアパルトマンに帰ってきた。階段を上る足も重たく、目の前にあるドアを見ると疲れが押し寄せ倍増した気がする。

 重たいのは身体ではなく心。

 フッと溜め息が零れてドアを開けると穏やかな陽射しが包み、優しい風が頬を撫でて髪が靡いた。まりえが先に戻って来ていて東側の窓を開けてくれたようだった。柔らかで優しい風がリビングに流れ込む。

「ただいま」

「おかえり」

 アパルトマンの中に入って行くとリビングのソファにまりえはゆっくりと座り、お気に入りのコーヒーを飲んでいる。香ばしいコーヒーの香りがリビングに漂っていた。まりえは私の姿を見るとクスクス笑った。そして、優しい声を響かせるのだった。一目で分かるくらいに私は落ち込んでいるのが分かるのだろう。

「今日もリズの洗礼を受けたのね。仕事に関しては妥協出来ない人だから仕方ないでしょ。さ、雅の好きなカフェオレを入れるから着替えてきて。お腹は空いているの?何か作る?」
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