君をひたすら傷つけて
「……」

「そんなに焦らなくていいよ。お願いというのは俺の誕生日に雅の作った料理が食べたいと思ったんだ。でも、無理はしないでいいから」

「私が作った料理?」

 料理はまりえに教えて貰っていたので普通の家庭料理レベルくらいは出来る。でも、それは日本人である私の舌に合う味ではあるけどアルベールに合うのかは疑問だった。リズはまりえの料理に慣れていたから、私の作る料理も美味しいと言って食べてくれる。

 でも、アルベールの誕生日にとなると敷居が高い。目の前に並んだお皿を見つめてしまった。こんなのは無理。

「サンドイッチでも何でもいいんだよ。一緒に公園で食べたい」

「公園でなの?」

「雅のアパルトマンに行くとリズがいるだろ。誕生日は二人がいい。俺のマンションは理性決壊の危険性があるから却下。これでも一応男だから」

 アルベールの言っている意味は分かる。

 半年も一緒にいるのに手を繋いだだけの私とアルベールの関係は微妙過ぎる。友達以上恋人未満だけど、それ以上の関係になってもおかしくない。仕事が終わると毎日のように一緒に居ることが多いし、周りも私とアルベールの関係を認めてくれている。

 何度も聞かれるのは『なんで一緒に住まないの?』ということだった。籍は入れずに一緒に住んでいる恋人なんかフランスでは当たり前だし、それで子どもを産み育てている人が多い中で、毎日のように一緒にいるのに一緒にも住まないことはフランスでは理解しがたいことだった。
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