君をひたすら傷つけて
『周りは周りで、それに倣う必要はないよ。俺と雅で二人の関係を築いていければいい』

 アルベールは私に対して殆ど何も望まない。一緒にいる時間は多いけど私の心にも踏み込んで来ない。何時までも足踏みをしている私を優しく見守ってくれていた。

 私はまだ義哉を忘れられない。

 優しい人だと思う。そして、申し訳ないとも思う。

 付き合い始めた頃より、私は格段にアルベールのことを好きになっている。傍に居てくれて安心もするし、私もアルベールのことを支えたいと思う。

「出来たてを食べて欲しいから、アルベールのマンションで料理してもいい?でも、期待されたら困る。だって、アルベールっていつも美味しいものばかり食べているから、そこだけが心配」

 パリの夜に妙に鮮明に響く声をアルベールはどんな思いで聞いたのだろう。ちらっと見上げるとアルベールは驚いた顔を私に向けていた。

「やっぱりサンドイッチがいい?」

 さっきの会話の流れでこの言葉を零す私は緊張している。マンションに行くという意味はアルベールには分かるだろう。二人で会うようになって二年の年月が流れている。付き合いだしてもかなりの時間が流れていて、私がアルベールを受け入れることは周りから考えてみれば遅すぎるくらいだった。

 アパルトマンの前で頬を撫でる風は少しの冷たさを感じさせ酔いが霞んでいく。それでも私は真っ直ぐにアルベールを見つめた。
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