君をひたすら傷つけて
バスルームを出て、ベッドに潜り込んだ私は外の世界を遮断した。

 逃げだとは分かっているけど自分の事だけを考えて行動してしまったのは私だ。シャワーを浴びて少しだけ冷静になると自分が犯した罪を思い知る。身体が受け入れることが出来なかったことよりも何も言わずにアパルトマンに帰ってきたことの方がアルベールを傷つけたかもしれない。

 それでも私はどうしようもないくらいにあの場には居れなかった。

『ごめんなさい。本当にごめんなさい』

 私が次に目を覚ましたのはかなりの時間が経っていた。サイドテーブルの上に置いてある時計は昼を軽く通り過ぎ、夕方を回っている。昨日からずっと泣いているのだから仕方ないのかもしれないけど、こんなに泣いて、こんなに目を腫らしたのはあの時以来…義哉を失った時以来だった。

 ベッドから降りてバッグの中の携帯を見ると着信とメールがあった。そのどちらもがアルベールからでその開かれた画面を見て、私は息を止めた。

『雅。雅のことだから一人で泣いているんじゃないかって心配している。気持ちが落ち着いてからでいいので連絡して欲しい。俺に対して悪いと思ったりする気持ちがあるからと距離を取ろうとはしないで欲しい。俺は雅が思うほど弱くはない。雅を支えるだけの強さは持っていると思うよ。俺は雅のことを大事にしたいと思っている。じゃあ、また』

 アルベールのメールを何度も何度も読み、携帯をきゅっと抱き寄せた。本当なら自分で連絡を取らないといけないのに、アルベールの優しさに甘やかされた。
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