君をひたすら傷つけて
 教室に先生が入ってきて授業が始まる。


 授業と言っても既に教科書最後のページまで授業は終わっている。今から控える受験のための各個人の自習の時間に当てられていた。先生も黒板に『自習』とチョークで書くと持って来ていた袋から文庫本を取り出した。私は単語帳を片付けると英語の受験対策の問題集を開いた。難しい問題に少し嫌気がさしてきて、フッと息を吐くと横に座っている高取くんと視線が合った。


「藤堂さん…。さっきは大丈夫だった?受験の時なのにごめんね」


「大丈夫。みんなで仲良くするのはいいことだよ」

「みんな優しいね」

 
 優しいというのは高取くんのことだよ。話す度に本当に優しい人だと思う。高取くんが優しいから周りも優しくなる。そう言いたかったけど、言えなかった。

「そうだね」

 私が躓いていた問題をどうにか解いて、次を解き始めた時に、高取くんも英語の問題集を開いてた。真剣な横顔が真っ直ぐに問題集に向けられている。真剣な表情に私はまだ真剣さが足りないのかもしれないと思うくらいに真剣だった。

 私と同じ問題集を解いているけど、サラサラと書かれた英文のアルファベットはタイピングしたかのように規則正しく書き込まれてある。英語は得意みたいだった。

< 48 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop