君をひたすら傷つけて
「そうだよな。フランスと日本で距離が離れているとはいえ、自分の彼女が他の男と一緒に食事したりするのは嬉しくないな」

 私の言った『ごめんなさい』はお兄ちゃんの言っている意味とは違って…自分が義哉以外の人と付き合いだしたことを申し訳ないと思っていること。二度目の恋を始めてしまったということ。

「違うの。…。ずっと義哉だけって思っていたのに他の男の人と付き合うようになってしまって」

 暗い夜道を立ち止まるとお兄ちゃんは私を安心させるかのように優しく微笑んだ。その微笑みに私は泣きそうになる。優しくしないで欲しい。

「それが普通だろ。あれからもう七年だよ。今まで雅に恋人がいなかった方がおかしいくらいだ。義哉も雅が幸せになることを願っていると思う。それに雅からそんな言葉が聞けるってことは雅は義哉のことを今でも大事に思ってくれている証拠だろ」

 アルベールと付き合いだした今でも私の心に義哉はいる。それは間違いない。

「義哉は特別。どんな人と恋をしても私の心の中には義哉がいる。アルベールも無理に忘れる必要はないし今のままの私でいいと言ってくれてる」

「雅は大事にされているな」
「うん」
「安心したよ」


 そんな言葉を零す私にお兄ちゃんはフッと息を吐いた。ゆっくりと嚙みしめるように零した言葉は優しさに包まれている。その言葉の端々に本当の妹ではないのに、本当の妹以上に大事にされている。

 月明かりの中、お兄ちゃんと並んで駐車場に向かって歩く。こんな風に一緒に歩くのは久しぶり。話している内容なそんなに面白いものでもなくて普段のことばかりだったけど穏やかな時間だった。
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