君をひたすら傷つけて
リズから詳しいことは殆ど聞いてない。私は通訳として日本の登記スタッフとエマさんの橋渡しをすること。契約書に可笑しな文言が入ってないかを確認すること。リズに経過を報告すること。会社の規模も、オフィスの規模も聞いてなかった。 

 心には動揺が走りながらも私は玄関の自動ドアから入り、目の間にある二階に続くスチール製の階段をゆっくりと上るとチャイム押した。

 時間は十時五十分。ほぼ時間通りだった。

 中からコツコツとヒールが床を鳴らす音が聞こえてきてドアが勢いよく開いた。そして、私が視線を上げるとそこには一目で『エマさん』と分かる女性が立っていた。

『初めまして。藤堂雅と言います。フランスでリズの会社で働いていました。今回の会社設立に出来る限りお手伝いしたいと思っていますのでよろしくお願いします』

 自己紹介を考えていたのにその言葉が口から出てこなかった。

 エマ・ジョンソン。

 アメリカで成功して日本でも会社を設立する彼女はオフィスを闊歩する女性を想像していた。スタイリッシュな細身のスーツを着込んだキャリアウーマン。髪は一つに綺麗に纏めていて、一筋の乱れもない。でも、彼女はリズの友達だった。

 私の大事なリズの友達。そう友達なだけあって…。『類は友を呼ぶ』

 『ゴージャスなセクシー女優』これが目の前にいるエマさんに対する表現で間違いない。

 身体の綺麗な線を添うように作られているスーツは色こそ濃紺で落ち着いているものの、そのラインがあまりにも大胆だった。上から見れば見えるのではないかと言うくらいに胸元が開いていた。
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