君をひたすら傷つけて
眉間の皺を少し緩めようと入ったカフェで私はゆっくりと肩の力が抜けていくのを感じた。本格的なエスプレッソが飲める店で苦みと深みがリズが淹れてくれるものに似ている。カプチーノの泡は細かくふんわりとカップの上に浮かんでいた。

「美味しい」

 さっき私を映していた窓際のガラスの向こうには人の波が映っている。

「みんな頑張っているのよね。私も頑張らないと」

 そんな言葉を口にしながらカプチーノを口に運ぶ。温かいカプチーノは身体だけでなく心も温めていく。そして、朝の妙な緊張は少しだけ緩んでいた。

 カフェを出て、真っ直ぐに駅に向かって歩く私の姿勢はさっきよりも確実に伸びている。そして前だけを見つめることにした。一駅だけ電車に乗って降りた駅から携帯の地図を見ながら住所の場所を探すことにした。でも、探す必要はなく、駅を出て少し歩いた場所に新築の綺麗なモダンな建物が見えた。

 地図の場所、住所の場所はその建物に間違いなかった。

 新しいオフィスは私が思っていたよりも大きなもので、目の前にある三階建ての建物が、私がリズから教えられて場所でこれから半月働く場所みたいだ。看板はまだ布を掛けられているけど、会社が設立して登記さえすれば覆いは外されるだろう。

 一階は駐車場になっていて、二階、三階がオフィスになっているようだった。全面をガラスで覆われている建物に太陽の光を反射していて、眩かった。

「まさかこんなに大きいなんて」

 日本での事業展開は小さなオフィスから始めると思っていた。そして徐々に事業拡大と同時に大きな場所に移るものだと勝手に思っていた。でも、それは根底から覆された。
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