君をひたすら傷つけて
 どんな言い訳をしても私はお兄ちゃんの腕の中が一番安心する。心が壊れそうになった時から、私を心から理解してくれるのも、悲しみを分け合ってくれるのもお兄ちゃんしかいない。恋をしたこともあるけど、お兄ちゃんのように心の底までドロドロになるくらいに甘えることは出来なかった。 


 抱き留められる優しさはあの頃と変わらない。いきなり腕を伸ばした私に仕方ないなというような小さな優しい溜め息を零して抱きしめる。ポンポンと落ち着かせるように撫でる。抱きしめるというのは語弊がある。温もりを分けて貰うという方が正しいかもしれない。


 彼の腕の中でないと私は落ち着くことが出来ない。お兄ちゃんの腕の中にいると安心するし、このままがいいと思う。身体を包み込むような優しさに酔う私がいる。甘えるのもいい加減にしないといけないと思うのに、ずっと甘えて生きてきたからいきなりは変えられない。



「うん。分かった。私も仕事で遅くなる。今日は篠崎さんに紹介された女優さんと顔合わせなの。雑誌の取材で使用する衣装としていの服を探して欲しいらしいの。どんなのを望まれるか分からないけど、彼の顔を潰さないように頑張らないととは思ってる。でも、結構、失敗したらどうしようとも思う」


「そっか。海が紹介したのか?共演の女優さんに服のことを色々聞かれていたから、アイツのことだから何も考えずに思い切り雅の宣伝をしたんだろうな」


 全く面識のない女優さんから仕事の話が来て、よくよく話を聞いてみると、篠崎さんの紹介というのも多々ある。そのお蔭で私は日本でスタイリストとして独り立ち出来ていた。

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