君をひたすら傷つけて
 高取くんが教室を出てから少し時間が過ぎている。私は無造作に携帯をコートのポケットの中に入れると教室を出た。もう誰も居なくなってしまった教室は人の熱を失って寒いのに、私は今からの事を思うだけで気持ちが高鳴り、頬が熱くなる。

「プレゼント選びを手伝うだけだよ」

 そう自分に言い聞かせてもドキドキが止まらない。絶対に顔が赤くなっている。でも、そんな頬を自分の冷たい手でそっと押さえて、パチンと叩いてから高取くんの待つ渡り廊下に向かう。


 教室から渡り廊下まではそんなに遠くない。でも、何度も立ち止まっては息を吐き、そんなのを何度か繰り返した。手と足が一緒に出そうなほど緊張している私がいた。


 毎日教室で会っているのに…なんでこんなに緊張するのだろう。


 クラスの男の子と一緒に買い物に行ったことはある。高取くんが初めてというわけではない。体育祭の買い物とか学園祭の買い物とかで何度もあるけど緊張したことはない。理由は分かっている。


 一緒に行く相手が高取くんだから…。


 渡り廊下までくると壁に背中を付け、携帯を見詰める高取くんの姿が目に入る。高取くんも走ってきた私に気付いて携帯をそっとコートのポケットに入れると眩い微笑みを見せるのだった。
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