君をひたすら傷つけて
「待たせてごめんね。さやかと話してたの」


「そんなに待ってないよ。それに急に誘ったのは僕の方でしょ。忙しい時期にありがとう。本当に助かる」

 受験を控えた今の時期は本当に忙しい。でも一緒に行きたかった。

「でも、高取くんのお母さんのくらいの年の人が何を喜ぶとかわからないよ。それでもいいの」

「うん。一緒に来てくれるだけで嬉しいから」

 高取くんと一緒にいると私は胸の奥がキュッとなる。高取くんはもうすぐ転校する。

 それは最初から決まっていることだから、せめて思い出が欲しかった。いつかどこかで会った時に少しでも高取くんの記憶の中に私が残るといいのにと思う。少しの時間を一緒に過ごしたら高取くんはどこかに行ってしまう。どこに行くのかも知らない。聞きたいけど聞けないのは私が高取くんの特別ではないから。

「こういう時は女の子たちはどこに行くの?」

「駅前のショッピングセンターとかかな。でも、高校生の女の子と大人の女性は欲しがるものが一緒だとは思わないけど」

「でも、僕が一人で選ぶと無機質なものになるから」

「無機質なものって?」

「手帳とかボールペンとか。そんなの」

「お母さんってどんな人なの?」

「優しい人だよ。ずっと、働いてばかりなんだ。だから、たまには綺麗な物なんかを見て癒されて欲しいというか」
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