君をひたすら傷つけて
 空港でリズと別れた私は真っすぐに搭乗口に向かうことにした。荷物を預け身軽な状況で歩く私に注がれる視線に振り向くと少し離れた場所にアルベールの姿を見つけることが出来た。スーツにサングラスをかけた姿は雑踏の中でもわかる輝きは眩いのにもう近くに行くことすらできない。自分から本当は別れの言葉を言わないといけないのに、それもアルベールの優しさに甘えてしまった。

 アルベールのプロポーズにすぐに応えられなかった私の気持ちに気づいていたのだろう。思いに応えられなくてごめんなさいという気持ちと本気で愛してくれてありがとうという気持ちが入り混じっていた。もっと時間があれば、もっと好きになれたし、愛することも出来たと思う。

 でも、もしもはない。私は応えられなかったというただそれだけのこと。

 サングラスの奥の瞳に映る私はどう見えるだろう。本当に好きだった。でも、全てを捨てて走れるほどの思いではなかった。私は出来るだけ綺麗に笑ってフランスに、アルベールに、さよならを告げる。

 私はここで義哉を失った痛みを癒し、自分の生きる道を見つけた。そして、もう一度恋が出来ることを知った。誰よりも優しく私を愛してくれた人は今までとは違う道を歩く。私は自分の道をゆっくりとでいいから、確実に歩きたいと思う。

『ありがとう』という言葉を残して私は搭乗口に向かった。

 そして、またいつか出会うことがあれば、胸を張って自分の道を歩いていたい。そう思った。

 まりえの取ってくれた飛行機の席は窓際で、ちょうど翼の真横だった。真っすぐに伸びる翼を見て、頬を濡らした涙の粒を拭うと泣く権利のない自分を戒めた。

 好きなのに…好きだから……。

 一つの恋が終わった。
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