君をひたすら傷つけて
 私にリズのようにような実力はない。でも、魔法使いの弟子として少しは成長しているはずだと思う。

「髪は一度巻いてからアップスタイルにするつもりだけどいい?この前のドレスからすると胸元のカッティングが綺麗だから、アップにした方がいいと思うの。でも、ただ巻き上げるだけでは可愛らしさが足りないから、毛足を遊ばせて、フェミニンな雰囲気にしようと思うけど、どう?」

「雅さんにお任せします」


「化粧は里桜ちゃんの肌のきれいさを際立たせるようにしようと思うけど、今回は結婚式なので清楚な中にも華やかさが必要だと思うの。花嫁よりも綺麗にしないといけないから大変だわ。私の腕によりをかけて磨いてあげるから」

 里桜ちゃんを綺麗にして、篠崎さんの横で微笑むことが出来るように手伝うくらいしか私には出来ない。元カレの結婚式を壊す必要はないけど、でも、里桜ちゃんを手放したことを後悔するくらいに可愛くはしてあげたいと思う。

『俳優篠崎海が愛した女性』だけでなく『俳優篠崎海の横に並んで霞まない女性』にしたい。

 誰よりも幸せな女の子になるようにと願いを込めながら化粧していると、不意に自分のことを考えた。もしも、義哉が生きていたなら、里桜ちゃんのように愛されて、里桜ちゃんのように綺麗になり、里桜ちゃんのように守られるのだろうかと。

 篠崎さんは何があっても『里桜ちゃんを守る』だろう。
 義哉もきっと『私を守ってくれる』だろう。

 もう亡くなって何年も経っているのに、不意に義哉のことを思い出す。好きで誰よりも大事だった。最後の一瞬まで私のことを思ってくれた人。

 忘れられないのがいいのか悪いのか……。

「ここからが大事なのよね」

 化粧が終わり、着替えも終わって、準備が出来た里桜ちゃんを見ながら、頭の中を整理していく。そして、持ってきた袋の中から箱をいくつも取り出した。
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