君をひたすら傷つけて
「篠崎さん。おはようございます」

「おはよう。雅さん。今日はよろしくお願いします」

 里桜ちゃんの準備をしている間、篠崎さんとお兄ちゃんは仕事の打ち合わせを始めるというので、時間は限られてはいるけど、気を遣わずに里桜ちゃんに向かうことが出来る。それにしても里桜ちゃんは前に見た三週間前とでは全く違う人のようになっていた。

 不安そうな顔はしている。
 でも、前のように絶望的な表情はしていない。

 考えてみれば里桜ちゃんに会ったのは里桜ちゃんが人生で一番辛かった時だろうし、それに今は誰よりも優しくて頼りがいのある篠崎さんが付いている。クランクアップ当日に一人で東京に戻ってくるほど、里桜ちゃんのことを思っている人がいる。

「もちろんよ。じゃあ、里桜ちゃんの部屋で着替えとかしましょうね。篠崎くんは楽しみにしておいて。それと高取さんは持ってきた荷物を里桜ちゃんの部屋に運び込んだらすぐに出てね。今からは女の子の時間だから」

「わかっているよ。雅が里桜さんのメイクとかしている間に俺も海と仕事の打ち合わせがある」

「それならいいけど」

 篠崎さんに案内されて、私とお兄ちゃんは里桜ちゃんの部屋に入った。あの日、荷物を運搬して来た時はモデルルームのような生活感がない部屋だったけど、今は里桜ちゃんが生活している部屋になっていた。

「今日はありがとうございます。よろしくお願いします」

「魔法をかけてあげる」
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