君をひたすら傷つけて
 約束の朝の八時に合わせて私はお兄ちゃんと一緒に篠崎さんのマンションに向かった。車の中で私もお兄ちゃんも何も言葉を出さなかった。何をどう言っていいか分からなかったからだった。

「雅。俺に怒っているか?」

「ううん。でも、お兄ちゃんなら、こういう事態は避けられなかったのかなって思っただけ」

 怒っているというよりは……。戸惑っている。いつも全てのことをスムーズにこなすお兄ちゃんにしては珍しい失態だと思う。普段のお兄ちゃんなら記事が出る前に握りつぶすだろう。でも、今回は記事を止めることが出来なかった。

「正直なところ、もう少し時間があれば、こんな方法を取ったりはしなかった。
 里桜さんには申し訳ないという気持ちがあるが、海の為には良かったと思う。こういう考えしか出来ない俺を軽蔑するか?あの苦しい思いをして海が撮影に臨んだ映画をお蔵入りにしたくなかった。里桜さんもあんな写真が出たら、近いうちに身バレするだろう。海が一緒にいることが出来ない時に何かあると困るとも思った。でも、それは言い訳だな」

「ううん。記事が出てしまった後のことを考えたら、本当に結婚してしまう方がいいと思う。でも、それは客観的に見てででしょ。一人の女の子の人生を踏みつけにするようで胸の奥が少し重い」

「だから、海が会見をする。里桜さんにこれ以上悲しい思いをさせないために……」

 今日の記者会見の意義は……。里桜ちゃんのためだった。
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