君をひたすら傷つけて
 映画祭に出席する篠崎さんは私と専属契約をしているけど、それ以外の参加者の衣装となるとそれなりに大きなお金が動く。特に衣装は各国のメディアも雑誌に掲載するからか、値段に糸目をつけない人も多い。映画祭に出席となると男性はタキシード、女性は色華やかなドレスを身に纏う。

 それだけでなく私の渡航費まで出してくれるとなると本当に破格。それも里桜ちゃんの写真を撮ってくるだけのことで……。

「分かった。神崎くんを車で拾ってから里桜ちゃんの会社に行くわ。でも、いいの。こんなに大盤振る舞いして……」

「海の意向だから」

「わかった。じゃ、里桜ちゃんに連絡だけしておいてくれる?」

「ああ。悪いな」

 お兄ちゃんが少し肩を竦めながら言うのを見て、お兄ちゃんも『篠崎さんの溺愛』ぶりに笑うしかないって感じなのかもしれない。

 里桜ちゃんの会社に行く前に神崎くんを拾いにいくことにした。今日は別のカメラの仕事が終わってスタジオに籠っているらしく、私が迎えに行くと携帯の呼び出し音が鳴らないうちに神崎くんがスタジオから出てきた。

 真剣に仕事をしていたか、妙に目が赤い。

「お疲れ様。大丈夫?」

「あんまり寝てないけど、篠崎さんの頼みなら断れないし、高取さんから電話があった時は背中が伸びたよ。で、俺に撮って欲しいのはパスポートの申請のための写真だよな。あんまり撮影したことないけど、会社の入っているロビーで撮るの?」

「そうよ。篠崎さんの奥さんの写真。撮影が終わったら、すぐにプリントして、高取さんが申請に行く予定よ。すぐに申請しないといけないみたい」
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