君をひたすら傷つけて
 私は高取くんのお兄さんの好意に甘え、ショッピングセンターからタクシーに乗って自分の家の近くまで戻ってきた。タクシーで帰ってきた分、塾に行くまでの時間はあったので私は自分の部屋でベッドに飛び乗るとそのまま枕を抱き寄せる。急にまた怖くなって、苦しそうだった高取くんの顔が浮かぶ。


 怖かった。そして、あの後どうなったか心配で堪らなかった。大丈夫と言った高取くんのお兄さんの言葉を信じるしかないけど、心配せずにはいられないし、高取くんが明日、何もなかったかのように元気な姿を見せてくれたらと願うしかなかった。


 塾に行き、普段通りに生活を送る。そして、寝る前に高取くんの携帯にメールを送って、目を閉じた。両手を握り祈る。何事もなかったかのように学校で会いたい。


『明日会えるよね』


 でも、その願いは叶えられなかった。

 次の日になっても、その次の日になっても高取くんが学校にくる気配はない。担任の先生は『酷い風邪を引いている』としか言わないからそれ以上のことは何も分からなかった。今の時期に酷い風邪というのを聞いてクラスのみんなも心配はしたけど、センター前のこの時期に他の人の心配を出来る余裕なんかないので、みんな自分の事を必死にしていた。


 あの時、高取くんの身体に熱っぽさは感じられず、どちらかというとひんやりと冷たい感じだった。お兄さんは貧血で寝ているだけと言ったけど、それも違う気がした。自分の勉強をしながらも心配でつい横の席を見てしまう。

 
 明日こそは来るよね。

 そう毎日毎日自分に言い聞かせるけど高取くんが学校に来ることはなかった。何度もメールしたけど返信は無かった。

 そして、私の願いが通じたのか、高取くんに会いたいという私の望みは偶然によって叶えられた。
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