君をひたすら傷つけて
 高取くんのお兄さんは自分のポケットからハンカチを取り出すと私の頬に流れる涙を拭いてくれた。私は焦るばかりで自分が涙を流しているのを拭くのさえ忘れていた。怖くて堪らなかったし、お兄さんがきてくれてホッとしたので気が緩んだのかもしれない。

「ありがとう。急に義哉が倒れて怖かったよね。でも、藤堂さんが一緒に居てくれてよかった」

 私が首を横に振ると、スッと左手を伸ばして頭をポンポンと撫でてくれた。

「本当にありがとう」


 お兄さんは高取くんを背中に背負うとそのままショッピングセンターの連絡通路から抜けて駐車場に向かった。ここに高取くんが居た理由がお兄さんが迎えに来た時に連れだしやすいようにだろう。ここで高取くんが倒れたのも大事にはなってない。

 一人残された私は自分の右手をそっと開くと、力を入れ過ぎた余りにくしゃくしゃになったお札がある。家に帰るには多すぎる金額であの様子じゃ返すにしても絶対に受け取ってくれない気がした。


 このままタクシーに乗って帰ろうかと思ったけど私はふと思い出し、さっきまでいたオルゴールの店に行くと高取くんと一緒に選んだオルゴールを買うことにした。お母さんの誕生日プレゼントと言っていたから、綺麗にラッピングして貰って、明日は無理にしても明後日でも学校で手渡したいと思った。


 オルゴールを手に取った時の高取くんの笑顔を思い出すと胸が苦しかった。
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