君をひたすら傷つけて
「篠崎さんはスタイルがいいからそれだけで服が綺麗に見えるの。スタイリストとしてはどちらかというとどんな服でも着こなしてくれるから助かるわ」


「確かに海のスタイルの良さは群を抜いている」


 目を細めて眩そうに見つめる視線にドキッとしてしまう。女の人が勘違いしてしまいそうな眼差しを向けられる先にいるのは篠崎海。ただ一人。ただのマネージャーと俳優の関係は当の昔に崩れていて篠崎さんを真摯に世話を焼く姿は私がたまに妬いてしまうほどだった。


 妬いてしまうけど、それでも、私も篠崎さんには好意を持っている。本当にいい人というのはこういう人を言うんだと思わせる彼は人間的に優れている。そして、人たらしでもある彼は虜にした女優や俳優を私に紹介してくれる。


『俺のスタイリストは最高に腕利きです』


 そんな恥ずかしい言葉で宣伝される私はハードルの高さに毎回戦闘を挑んでいるようだった。でも、それが気持ちいいくらいに緊張と遣り甲斐を生む。


「そうよ。篠崎さんが思いっきりハードル上げてくれたから頑張る」


「雅なら出来る。雅の仕事は俺が一番認めている。実力もある。だから、自信を持っていい。それに雅の選ぶ服や小物はそれを身に着ける人の格を上げる」


 やっぱりお兄ちゃんは私に甘い。お兄ちゃんの言葉を聞いていたら、勘違いになりそうなほどの甘さに私はズブズブと埋まりそうだった。


「それ言い過ぎ」


「雅は謙遜しすぎ。この世界は自己主張も大事」
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