君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんが弱い人間なら、私はもっと弱い。でも、人間だからそれでいいのかもしれない。一人では生きていけないと教えてくれたのは義哉で、そして、生きていけないくらいに心を閉ざした私を守ってくれたのはお兄ちゃんだった。あの時があり、今の私がいる。小さな積み重ねてきたものが、今の私を形作る。

 こうしてお兄ちゃんの話を聞くことで、お兄ちゃんの気持ちの少しの靄が晴れるならそれでいい。

「まだ、もう少し甘えるから。期待していて。でも、お兄ちゃんが本当に好きな人が出来たら教えてね。私はお兄ちゃんが一番幸せになってくれることを祈っている」

「人を好きになるのは難しい。今は仕事が本当に面白いし、生活の全てだけど、いつか。海のように大事だと思える人に出会えたらいいと本当に思うよ」

「どっちが先に素敵な人を見つけるか競争ね」

「そういうのは競争ではないと思うけど」

「でも、私もお兄ちゃんも仕事が忙しいから、自分から探さないと恋は出来ないよ」

「そうだな。大事にしたいと思う気持ちを受け止めてもらうのは幸せかもしれないな。さ、もう遅いから、また、明日な。イタリアの件で決まり次第色々と連絡する」

「分かった。おやすみなさい」

「おやすみ」

 お兄ちゃんが部屋から出ていって、部屋で一人になると、ぎゅっとクッションを抱きしめた。心の奥が少しの軋みを生む。私は……。自分が分からない。どうして、何をそうなって、どうなるのか…。

 苦しい心の内を感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。

 それから二週間後に、雅人は里桜ちゃんのドレスを仕上げ、私は再びヨーロッパに行く準備を終わらせた。前と違うのはたった数日しかイタリアには滞在しないことだった。

 
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