君をひたすら傷つけて
「篠崎さんが前に挨拶に来てくれた時も二人は仲良くて本当に良かったと思ったの。電撃結婚って巷を騒がせたから、少し心配していたわ」

 里桜ちゃんのお母さんの話を聞きながら数か月前のことを思い出していた。あの頃、篠崎さんが結婚すると言い出して、お兄ちゃんが珍しく驚いていたのを思い出す。でも、映画祭でも受賞出来たし、自分で自分の結婚式に花を添えた形になった。
 
 専属スタイリストをしている欲目なしに篠崎海はいい俳優だと思う。あの容姿に驕らず、真摯に向かう姿勢は応援したくなるのは私だけではないだろう。そんな彼が全力で向かったのが里桜ちゃんだった。

「確かに電撃的な発表でしたが、篠崎さんはどうしても里桜ちゃんと結婚したかったのでしょうね」

「あんなに素敵な人から大事にされて、里桜は本当に幸せな子だと思います。でも、一人でミラノに行くなんて、昔の里桜からは想像も出来ないわ」

「里桜ちゃんはしっかりしてますよ」

「でも、一人でミラノまで好きな人のために行くような子ではなかった。行きたいと素直に言えたのは雅ちゃんのお陰ね。里桜から、ミラノに行ってからもメールが来ているけど、文面から幸せが零れそうな感じ。雅ちゃん。今回は本当にありがとう。結婚式だけでなく、色々な面でありがとうございます。里桜の母親として本当に感謝しています」

「私は里桜ちゃんのお手伝いが出来るだけで嬉しいです。受賞したこともあって、篠崎さんと里桜ちゃんの到着は遅れるかもしれません。心配でしょうから、私の方に連絡が入り次第、お知らせします。心配ですよね」

「心配というよりはお父さんの緊張を解す時間が出来るからいいかも。雅ちゃんが里桜の準備をしている間にお父さんと教会の周りを少し散策してくるわ。折角、フィレンツェに来てるから、プチ観光でもするわ」
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