君をひたすら傷つけて
 化粧とヘアセットをして、ドレスを着せるのを一人で全部することになると、時間がかかる。一番綺麗な里桜ちゃんを篠崎さんのところに届けるためにやっぱり出来る限りのことをしたい。リズがいてくれたらいいと思うけど、リズはパリに向かっていると思う。甘えられる人が居ないから、私は自分だけで頑張らないといけなかった。

 その時間は刻一刻と近づいている。

「近くで観光出来そうな場所を調べましょうか?」

「ううん。いいわ。フィレンツェは街並みを見ているだけでも素敵ですもの。里桜の花嫁姿を想像しながら、その辺りを歩くだけで楽しいわ」


「里桜ちゃんのウエディングドレスは楽しみですね」

「里桜のドレスはレンタルではなくて、雅ちゃんのお友達のデザイナーさんがオーダーで作ってくれたって聞いているわ」

「ええ。大学の同期です。同期だからというわけではないですが、素敵なドレスです」

「本当に楽しみね」

「写真の方は篠崎さんのよく知るカメラマンが撮ることになってます。カメラマンの神崎も若いですが、中々いい写真を撮ります。結婚式のアルバムを依頼しています」

「カメラマンまで」

「大事な式ですから。あ」

 私のバッグの中にある携帯が震えた。

『空港の搭乗口を抜けた。時間通りに教会に到着すると思う。里桜さんのご両親のことをよろしく』

 メールはお兄ちゃんからだった。スケジュール通りに行動出来ているようで、飛行機にさえ乗れれば結婚式は大丈夫。お兄ちゃんの事を信用してないわけではないけど、何があるか分からないから少し心配していた。

 結局は杞憂だったけど……。
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