君をひたすら傷つけて
「これ。公式を使うのは分かるんだけど、どうしてこの公式になるのか分からなくて」

 テキストの中にあるのは何度も似たような問題を解いたけど、どうしても間違えてしまう問題だった。

「ちょっと待って」


 高取くんは少し考えてから、静かに声を響かせる。

「これはこの公式を使うんだけど………」

 数学は苦手だった。嫌いだけど受験科目にあるから仕方ないと思っていた。でも、塾の先生よりも高取くんの説明の方がゆっくりだからか、優しいからか分からないけど、スッと入ってくる。一言一句、聞き漏らしたくないという私の気持ちが数学の問題に向けられるからかもしれないが、私は高取くんの言葉を必死にノートに書いていった。

 公式を使って言われたとおりに解いていくと、あんなに手古摺っていたのにサラリと解けた。


「僕の説明で分かったかな?」

「うん。ありがとう。分かりやすかった。ずっと、この手の問題は苦手で間違えてばかりなの」

「数学は問題をすればするだけ成績が伸びるよ。もうあんまり時間はないかもしれないけど、コツコツと頑張ったら大丈夫」

「ありがとう。じゃ、塾に行ってくるね」

「うん。気をつけて」


 私が無理やり押しかけているようなものなのに優しい微笑みを向けられる。このままずっと一緒に居たいと思った。
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