君をひたすら傷つけて
 次の日、私は学校が終わるとそのまま高取くんのいる病院に向かった。ノックをしてドアを開けると高取くんは私の姿を視線の先に捉え困ったような顔をした。困った顔をしていると分かっているのに、私は自分で昨日座った椅子に座ると『帰らない』という意思を見せる。


「ここには来ないでと言ったのに」

「数学が分からないの。だから教えて」


 口実というのは高取くんも分かっている。でも、少しの沈黙の後に優しく微笑みを浮かべるのだった。

「それを教えたら帰る?」


 私が頷くと…高取くんはベッドの右に置いてあるベッドテーブルを引き出すと私を見つめた。私がそのテーブルの上にテキストを乗せると椅子を一瞬見てから、


「ベッドでよかったら座って。椅子に座ったらノートが見えないでしょ」

「いいの?」

「うん。教えにくいから」


 私は頷くとテーブルを挟んだ辺りに座ると高取くんを見つめた。ベッドテーブルは幅が狭いので向き合うと思ったよりも近い。高取くんは私の水色のシャープペンを持って数学のテキストを見ている。


「どこがわからないの?」


 数学で分からないところがあるのは本当だった。数学を聞く人はいくらでもいる。学校の先生でも塾の先生でも…。高取くんと一緒に居たいと思う気持ちが言い訳した。
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