君をひたすら傷つけて
「ううん。そろそろ起きようと思っていたとこ。エマに連絡したら、篠崎さんが日本に帰ってくるまではオフだって。少しゆっくりしようと思ってる。イタリアではバタバタだったから」

「イタリアでは色々とありがとう。雅がいてくれたから、本当に助かった」

「いいのよ。里桜ちゃんのこと大好きだし。お兄ちゃんはいつから仕事?」

「私は明日から仕事だよ。海が戻ってくるまでに、色々なスケジュール調整をしないといけない。既に社長からも、テレビ局からも出演依頼の連絡が来ている」

「本当に忙しいのね」

「海が映画祭で受賞したから、嬉しい忙しさだよ。これからは特にね。それと、雅には頼みがある。明日、里桜さんを空港まで迎えに行ってくれないか?海はそのまま仕事に行くことになると思う」

「分かった。篠崎さんも里桜ちゃんを一人置いたままで仕事に行くのは後ろ髪を引かれるだろうし」

「本当に助かる。それと、雅に大事な話がある」

 その話を聞きたくないと思った。多分、お兄ちゃんの話はあの夜のこと。お互いの為に忘れようということだと思う。でも、私はそのことに触れたくなかった。

「何?」

「フィレンツェでのことだよ」

「酔っていたからってことで、忘れて」

 私がそういうと、お兄ちゃんは自分の眼鏡をそっと外して、テーブルの上に置くと、私の手をグッと引き、私の身体を抱き寄せた。そして、そのまま、私の唇に自分の唇を重ねた。
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