君をひたすら傷つけて

理由と言い訳

『今から飛行機の乗る』

 そんなメールが私の携帯に届く。篠崎さんと里桜ちゃんの新婚旅行を出来るだけ邪魔したくなかったのか、お兄ちゃんは私たちが飛行機に乗ってから、しばらくは空港で篠崎さんを待ち、二人を送り出してから、日本行きの飛行機に乗ったのだろう。 

 玄関のドアがガタっと音がして、キャスターが転がる音がする。お兄ちゃんがマンションに戻ってきた。私がマンションに戻った次の日の朝の事だった。私は自分のベッドでまだ寝ていて、お兄ちゃんが戻ってきたのは分かっていたけど、まだ、自分の部屋から出ることが出来なかった。

 色々と考えた末に私は普段通りでフィレンツェでのことは『何もなかった』ことにする。それがお互いに一番いいと思った。きっと、たった一回では妊娠することもないだろうし、何もなかったことにしようと思った。

「おかえりなさい。お疲れ様」

 自分の部屋から出て、リビングにいるお兄ちゃんに声を掛けた。すると、お兄ちゃんは驚いたような表情をして、それから穏やかに微笑んだ。イタリアからだから、かなり疲れていたようで、目の下には珍しく隈もある。

 本当なら一緒に日本に戻ってくるはずだったのに、様々な手配をして、二人を送り出してから、帰ってきたのだから、私の想像以上に疲れていると思う。それでも何事もなかったかのようにお兄ちゃんは言った。

「ただいま。まだ寝てるかと思った。もしかして起こしたか?」

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