君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんと何も話さないまま離れて一か月半が過ぎていた。

 今になって考えてみると、あの頃の私は自分の気持ちばかりで、誰のことも考えてなかったと思う。色々なことを言いながらも結局は自分が可愛くて、全てを捨てて逃げた。そんな私なのに、お兄ちゃんは毎日のメールは欠かさなかった。

 もう一緒に住めないとマンションを出たのは自分の気持ちが分からなくなってしまっていたからだった。イタリアで私が望んだのは義哉の遺伝子。全く同じでなくてもいいと思い、お兄ちゃんに抱いてと頼んだ。普通の神経であんなことは言えなかったとは思うけど、篠崎さんと里桜ちゃんの素敵な結婚式が私の心を揺らした。

 あれが豪華絢爛な結婚式なら、あそこまで心を揺らすことはなかった。

 義哉との未来を夢見たこともあった。眩いくらいに輝くアルベールに一緒に歩こうと言われたこともある。でも、私が求めたのはお兄ちゃんだった。私とお兄ちゃんの壁が壊れた時、お兄ちゃんは結婚を口にした。その時に、私は自分の犯してしまった罪を感じた。

 責任を取らせるようなことをさせてしまったと……。

 お兄ちゃんは私を優しく抱いた。優しくしないでくれたらよかったのに、お兄ちゃんは優しく私を抱いた。触れる指の優しさに何度も身体を揺らし、心を揺らし、何も考えられなくなって……。心と身体をゆっくりと満たされて、身体の奥底に温もりを感じた。

 甘さに身体の芯が蕩ける気がして、怖かった。

 いつもの冷静沈着さはなく、私を抱きながら、背中に汗を流す。汗ばむ胸に頬を寄せると激しく鼓動を感じた。

 生きている……。
 生きていると思った……。
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